世界各国で中国メーカーの存在感が高まっているが、その姿がほとんど見えない市場も少なからず存在する。それは米国と韓国だ。韓国はサムスン、LGという2大メーカーがハイエンドからエントリーモデルまであらゆる製品を投入し、また端末販売は日本の一昔前のようにキャリア販売が主流であることから、数年前はHuawei、そして最近はXiaomiが参入したものの存在感は薄い。韓国ではiPhoneの人気も高いことから、中国メーカーはブランド力を高めなければ参入は難しい市場と言えそうだ。
一方、米国市場は数年前までZTEのエントリーモデルがプリペイド端末市場で強かったものの、2018年に輸出問題で米国政府の制裁を受けてから失速。前年には鳴り物入りで発表した2画面折りたたみ端末「AXON M」をAT&T向けに発売し技術面でも米国市場でアピールするはずだったが、最終的には市中在庫分を残して市場から撤退してしまった。なお米国ではLGがスマートフォンから撤退したことで、プリペイド向けスマートフォンのバリエーションがさらに減少してしまっている。
他の国ならばLGの穴を埋めるべくXiaomiやReamleなどが製品投入ペースを加速化していくのだが、米国に両社はまだ参入していない。今から参入することも社会情勢を考えると難しいだろう。そうなるとサムスンのGalaxy Aシリーズやモトローラの低価格機に注目が集まるが、実はTCLが低価格端末市場での展開を本格化させているのだ。しかも4G機ではなく5Gスマートフォンの普及モデルを次々と投入している。
5Gの普及で後れを取っている米国
TCLは1月にラスベガスで開催されたCES 2022で米国向けとなるスマートフォン「TCL 30」シリーズを発表した。Verizon向けとなる「TCL 30 V 5G」と、T-Mobile向けとなる「TCL 30 XE 5G」の2機種で、前者がSnapdragon 480に5000万画素カメラ、後者はDimensity 700に1300万画素カメラを搭載する普及モデルとなる。価格は未定だが2022年第1四半期には発売される予定である。
TCL 30 XE 5G(左)とTCL 30 V 5G(右)
米国では2019年4月にVerizonが5Gサービスを開始して以降、AT&T、旧Sprint、T-Mobileの大手キャリアも順次追従。2020年4月にはSprintがT-Mobileに吸収された一方で、旧Sprint系のMVNOだったBoostmobileをDishが買収するなど、5G開始の動きと共にキャリア再編も進んでいる。そして2022年1月現在、各キャリアの回線を利用するMVNOの多くも5Gサービスを展開中だ。
世界の5Gサービスでは中国の加入者数が圧倒的に多く、エリクソンのレポートによると2021年の全世界の5G加入者数6億6000万のうち、中国は7割にあたる4億6000万に達している。中国の5G加入者数は既に日本の人口を超えているのだ。また日本や韓国など北東アジアは1億1700万とのこと。そしてこれら地域に次ぐのが米国(北米)で、その数は8000万。人口3億を超える米国の5G普及率はまだ4分の1にも達していない。
米キャリアが100ドル台の低価格な5Gスマホを投入
米国のキャリア各社は今後も5Gの投資が必要であり、そのためには5G利用者を増やす必要がある。4G時代にはデータ定額プランなどを提供することで、より高い通信費を投入していったが、5Gでは家族で同じ回線を共有する「複数SIMカード」サービスを増やし、顧客の囲い込みも強化している。
米国はiPhoneの普及率も高いために、「iPhone 12」「iPhone 13」シリーズへの買い替えユーザーも多く5G端末への買い替えが進んでいるように見える。しかし米国でも約半数の国民はAndroid端末を使っており、低所得者を中心にプリペイドユーザーも多い。
iPhoneユーザーなら5Gプランへの移行も順調に進んでいるだろうが、プリペイド端末ユーザーの多くはミドルレンジ以下の製品を使っている。キャリアにとってはそれらユーザーをいかに5Gへ移行させるかを考えねばならないわけだ。
そこで各キャリアは5Gの低価格スマートフォンを積極的に投入している。特に自社専用販売の「キャリアブランド5G端末」に100ドル台の低価格な5Gスマートフォンを用意している。AT&Tの「RADIANT Max 5G」やT-Mobileの「REVVL 5G」など、ベトナムや中国のODMメーカー品の5Gスマートフォンが相次いで投入されており、大手メーカーの低価格5G機より安い値段で販売されている。
AT&Tの「RADIANT Max 5G」。ベトナムのODM製だ
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